「モダナイゼーション」とは老朽化した現行のシステムを、現在のニーズに合わせて変革することを指します。企業がDXを実現するためのファーストステップとも言える重要な取り組みであり、2025年の崖を前に、企業が実現すべき課題の1つです。本記事では、モダナイゼーションの概要や「マイグレーション」との違いなどを解説します。
「モダナイゼーション(Modernization)」とは、直訳すると「現代化」や「近代化」といった意味の言葉で、老朽化した既存システムを現在のニーズに合うよう刷新したり、置き換えたりすることを指します。
ここでいう「既存システム」とは、主に在庫管理システムや販売管理システムといった基幹業務システムのことです。企業によっては、20〜30年前に導入したシステムを現在も使い続けているケースが珍しくありません。
長年に渡り、大規模改修を行うことなく使われ続けてきた基幹システムは、業務プロセスと密接に結びついています。そうなると、新しいシステムに置き換えようにも作業負担が大きくなるため、なかなかシステム刷新に踏み切れなくなっていくでしょう。
業務システムの使い勝手は年月とともに劣っていきます。かといって、ニーズの変化に合わせて業務プロセスを変更しようものなら、システム側でも小規模な機能追加や仕様変更を何度も行うことになり、結果的にシステムの構造が複雑化しかねません。そうなれば、内部構造やシステムの変更過程を把握するエンジニアが退職した場合、ブラックボックスと化してしまう恐れもあるのです。
そのようなシステムは、老朽化していることに加えて、企業の資産である重要なデータが蓄積されていることから「レガシーシステム」と呼ばれます。モダナイゼーションでは、この資産を活かしつつ、レガシーシステムを現状に見合う形に作り換えることを目指します。
DX実現の鍵!モダナイゼーションに注目が集まる理由
モダナイゼーションに注目が集まっている背景には、人口減少にともなう国内市場の縮小、および海外進出へ向けた機運の高まりがあります。加えて、経済産業省が2018年にDXレポート内で警鐘を鳴らした「2025年の崖」の存在も大きいでしょう。順を追ってこうした点を整理していきます。
少子化が進む中、日本企業にとってグローバル市場への参入は不可欠です。外国企業と同じ土俵で戦うためには、製品・サービスをローカライズすることはもちろん、業務プロセスやビジネスモデルさえも、現地の慣習やニーズに適応させていく必要があります。
また、当然ながらグローバル市場においても、業務に関する情報を迅速に収集・活用する体制が求められますが、現地と日本では法規制や通貨も異なるため、レガシーシステムを海外拠点で利用するのは無理があるでしょう。
ただでさえビジネス環境が変化するスピードは速く、レガシーシステムではそれに対応できず競合他社の先行を許してしまいます。そうした背景から、近年は日本でも「DX(デジタルトランスフォーメーション)」に取り組む動きが広がっています。
DXとはデジタル技術やデータを活用し、製品・サービス・業務プロセス・ビジネスモデル、さらには組織のあり方までをも変革させ、市場における優位を確立しようとする動きのことです。このDXとして、グローバル市場でも戦えるように、日本企業の在り方を変化させていくことが重要となっているのです。
しかしながら、先述のようにレガシーシステムでは、内部構造が複雑化・ブラックボックス化していることも多いのです。そのため、部署間でのデータ連携およびデータの有効活用がシステム構造的に難しく、新しいデジタル技術の導入にも対応できません。運用保守にかかる費用もかさみがちで、セキュリティ面の脆弱性も懸念されます。さらに、システムの内部構造を理解する人材が少ないか、あるいは社内に存在しないため、システム障害が発生した際に対応の遅れを招きます。こうした状況ではDX促進は困難を極めるでしょう。
こうしたレガシーシステムに起因する課題を解決できないまま、基幹システムのサポート終了期限が集中する2025年以降に突入してしまうと、国内で年間最大12兆円もの経済的損失が生じるという予測を、経済産業省は発表しました。これが「2025年の壁」です。
2025年の崖が迫る中、DXを実現するためにはまずレガシーシステムの刷新が不可欠です。そのための手段として、今日、モダナイゼーションの重要性が高まっているのです。
「マイグレーション(Migration)」とは、既存システムの機能や性能といった要件は変更せず、ハードウェアやソフトウェア、業務データなどを別の環境に移行させたり、新しい環境に切り替えたりすることです。日本語に直訳すると「移動」「移転」「移住」といった意味になります。
この際、パッチ適用のような部分的な実装ではなく、システム基盤自体を刷新することから、「情報システムのリノベーション」などと表現されています。
ビジネスシーンでマイグレーションという言葉を使うときは、一般的に「レガシーマイグレーション」を指します。
「レガシー(Legacy)」は「資産」「過去の遺産」を意味し、それ自体に悪い意味合いは含まれていません。ただし、システムに関連して用いられる際は、「レガシーシステム」のように「時代遅れの」「古くなった」という否定的なニュアンスを含みます。つまりレガシーマイグレーションとは、老朽化・複雑化・ブラックボックス化したレガシーシステムを、新しいシステムに移行・刷新することを意味します。
モダナイゼーションとマイグレーションとの違い
モダナイゼーションとマイグレーションは、しばしば混同されがちです。モダナイゼーションでは既存システムやそこに蓄積されたデータなど、企業の資産と呼べるものは活かしつつ、最新技術を活用してシステム構造を変革します。それに対し、マイグレーションでは既存システムの構造は変更せず、システムやデータを別のIT環境へ移転します。例としては、オンプレミスからクラウドへ移行するような取り組みがわかりやすいでしょう。
レガシーシステムをモダナイゼーションする最初のステップは、自社の基幹業務システムの現状を把握することです。「どのシステムが、どんな機能を実装されて・どのように運用されているか」を分析します。
また、システム移行を実現するためのプロジェクトを組織するなど、社内での体制整備も欠かせません。初期の現状分析や体制整備を蔑ろにしたままモダナイゼーションに取り組もうとすると、プロジェクトが開始してから次々に新しい要件が発生しかねず、ようやく完成したシステムも根本的な刷新には至らないまま、失敗に終わる可能性があります。
「現状分析」と「社内の体制整備」というプロセスを踏まえたうえで、モダナイゼーションを実現する方法としては、以下の3種類が挙げられます。
リプレース
「リプレース」とは、レガシーシステムの基盤を新しいソフトウェアなどに移す方法です。業務の要件を再定義するところからはじめ、既存のシステムやソフトウェアに依存せず新しいシステムと入れ替えます。
企業が目指す業務プロセスやビジネスモデルの実現に最適なシステムを選定・導入できるため、業務効率化や生産性向上にも貢献します。その一方、システムを総取り替えするとともに、業務プロセスを見直さなければならないことから、費用負担や作業負担が大きく、移行までの期間が長期化するデメリットもあります。そのため、大規模な投資を行ってでも抜本的な業務改革を目指す際の選択肢と言えるでしょう。
リライト
「リライト」とは、システムの要件はそのままに、自動変換ソフトなどを活用し、古いプログラムを新しい開発言語で書き換える方法です。レガシーシステムの開発言語には、主にCOBOLなどが使用されていますが、これをJavaや.netに書き直します。
リライトでは既存システムのままコストを抑えつつ、最新技術や新しいOSに対応できるようプログラムを作り直します。プログラムそのものが刷新されるため、現在のビジネス環境に見合ったシステムに生まれ変わるほか、セキュリティ強化やシステムの稼働効率向上にも貢献します。また、機能の追加や仕様変更を繰り返して複雑化したシステムでも、新しい開発言語への移行は可能です。
ただし、業務に関係する設計部分は維持されるため、業務改革にはつながらず、レガシー構造の解消度としては中位です。また、コードやデータベースの書き換えに手間がかかるほか、リライトを円滑に行うためには内部構造に通じるエンジニアの協力を要することも多く、実行にはハードルが高い手段とも言えます。
リホスト
「リホスト」は、既存システムをそのまま別のIT基盤に移行する方法です。メインフレーム上で稼働していたソフトウェアのプログラムにはほぼ変更を加えず、よりオープンな環境にプログラムを移行します。例えば、オンプレミスで運用している業務システムを、クラウドなどの新しいシステム基盤に移行するやり方が該当します。
ソフトウェアはそのままで、ハードウェアのみ移行するため、短期間でコストを抑えながらの移行が可能です。ただ刷新範囲が狭い分、レガシーの解消度は3種類の中でも一番低いことが、弱点と言えます。
モダナイゼーションの実現においては、クラウドへの移行が効果的です。例えば「Azure NetApp Files(ANF)」は、設計を根本から見直すことなくワークロードをクラウド化できる、フルマネージド型のストレージサービスです。Azureのデータセンター内に高性能なストレージが実装されているため、オンプレミスに近いI/O性能を発揮します。
また、サイズをほぼリアルタイムで柔軟に変更できるのもメリットです。Windowsへのログイン時に発生するサインインストームに対応し、始業時間のみサイズを増やして、平常時はもとに戻すことも可能です。これによりコストを軽減しつつ、ニーズに応じたパフォーマンスを確保できます。基幹業務システムのモダナイゼーションを目指すなら、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。
フルマネージド型のストレージサービスは2019年4月よりNetAppに入社。IT業界でのマーケティング業務にて長年に渡り培ってきた経験を活かし、ABM、イベント企画・運営、コンテンツマーケティング、広告など幅広くフィールドマーケティング業務に従事しています。やGoogle Cloud-Google Cloud NetApp Volumesもあります。
「モダナイゼーション」が最新技術を用いてレガシーシステムの構造自体を変革する取り組みであるのに対し、「マイグレーション」では既存システムの構造はそのままに、システムやデータのみを新しい環境に移行させます。マイグレーションはモダナイゼーションを進めるための一手段であり、さらにモダナイゼーション実現がDX実現にもつながります。
レガシーシステムをモダナイズする方法は、主に「リプレース」「リライト」「リホスト」の3種類があり、それぞれ作業負担やコスト、レガシーの解消度が変わってきます。モダナイゼーションの実現に向けては、まず自社システムの現状分析と、移行に向けた体制整備からはじめ、最適な手段を十分に検討しましょう。その万全な下準備のもと、モダナイゼーションへ着手することも大切です。
このブログは2023年8月まで公開していましたストレージチャンネルからの転載となります。
2019年4月よりNetAppに入社。IT業界でのマーケティング業務にて長年に渡り培ってきた経験を活かし、ABM、イベント企画・運営、コンテンツマーケティング、広告など幅広くフィールドマーケティング業務に従事しています。