日本国内では地震や台風等の自然災害は最大の事業継続リスクとして認識されており、ITの領域においても災害対策は欠かせません。一方で昨今、急速なテクノロジーの進歩に支えられ、衛星インターネットサービスやポータブル電源・発電機は低廉化が進み、導入のハードルは下がりつつあります。
そこでNetAppは、国立大学法人山口大学 情報基盤センター(以下、山口大学)と共同で、災害シナリオを仮定し、これらのテクノロジーと、NetAppのストレージが備えるデータ管理機能を組み合わせた災害対策の実現可能性、実用性を検証しました。本ブログではこの実証実験について紹介します。
日本国内では南海トラフ地震など巨大地震発生の恐れが高まり、気候変動や都市機能の集中による風水害の甚大化もあり、自然災害は最大の事業継続リスクとして認識されています。そのようななか昨今、災害対策において「災害レジリエンス」という考え方が注目されています。被災下では想定外のことが起きることも織り込みながら、「予防力」に加えて、「順応力」、「転換力」を高めようというものです。
ITの領域においても、災害レジリエンスは大きなテーマです。これまでのITの災害対策は、災害に対するITシステムの堅牢性やデータ保全といった予防力に関するものが中心でした。しかし被災時には、事業所が被災し電源やインターネット接続も失った状況下で(※1)、被災時に発生する様々な業務にも対応しながら通常業務の段階的な復旧も目指さなければなりません(※2)。そのため、被災した事業所の安全が確認されインフラが復旧するまでは、仮設拠点を設置し必要なデータにアクセスできるようにする、といった柔軟な対応(順応力や転換力)も必要とされるでしょう。
その一方で、昨今の急速なテクノロジーの進歩に支えられ、衛星インターネットサービスやポータブル電源・発電機は低廉化が進み、導入のハードルは下がりつつあります。これらのテクノロジーが被災地で活用されているシーンを、報道を通じて目にすることも増えてきました。
そこでNetAppは、災害に対するレジリエンスの高いITシステムを実現する一手法として、これらのテクノロジーとNetAppのストレージが備えるデータ管理機能を組み合わせ、被災地に開設した仮設拠点からのデータアクセスや仮設拠点へのデータ同期の実現可能性、実用性を、山口大学と共同で検証することとしました。
本実証実験では、「地域にある支社が被災しインターネット接続や電源を失い、本社から孤立したため、被災地に仮設拠点を設置し、衛星インターネットサービスを介して本社のデータにアクセスし、本社から仮設拠点にデータ同期を実施する」という状況を想定し、実験を行いました。
衛星インターネットサービスには、米 Space Exploration Technologies Corporation(以下Space X)が提供する衛星インターネットサービス「Starlink」を利用しています。
1.仮設拠点を容易に設置なこと
普通車(ミニバン)を利用して持ち運び可能な重量・大きさの機器を利用して、1時間程度で(※3)、仮設拠点の開設(機器搬入〜据付接続〜電源投入〜基本動作確認)が可能なことを確認しました。
※3:機器(ストレージやVPNルーター、Starlinkの可搬アンテナ等)には予め、本社側との接続に必要な設定を行っています
※4:Starlinkの可搬アンテナが起動中の動画はこちら
2.仮設拠点から本社のストレージにアクセス可能なこと
仮設拠点側から本社側に向かってStarlink経由でVPNトンネルを構成し、仮設拠点側のノートPCから、本社側のストレージ(NetApp AFF A300)にSMBプロトコルでアクセス可能なことを確認しました。 なお、Starlinkのインターネット接続基本性能(実測値)は、以下の通りでした。
人工衛星を経由した通信となるため速度や遅延に揺らぎがあり、上りと下りの速度が非対称で、一般的な光インターネット接続と比較して遅延が数倍から一桁程度大きいことが分かります。
本社側のストレージ(NetApp AFF A300)から、仮設拠点側のストレージ(NetApp ONTAP Simulator)上に、2パターンの方法でデータ同期を行い、その性能を比較しました。
実験の結果、パターン1(NetApp SnapMirror)は、パターン2(Windowsエクスプローラー)と比較して、倍速以上の速さでデータ同期が完了することを確認しました。
このように大きな差が生じたのには、大きく2つの理由があります。
このように、Starlinkのような比較的転送遅延の大きなネットワークでも、NetApp SnapMirrorにより高速にデータ同期を行えることを確認できました。
本実証実験では、インターネット接続や電源が失われた被災下においても、衛星インターネットサービス (Starlink)とポータブル発電機、そしてノートPC上のNetApp ONTAPを利用して仮設拠点を開設し、データ同期を高速に行えることを確認しました。
可搬性が高く低廉化が進む機材を活用しながら、被災想定した環境で高速にデータを保全でき、災害レジリエンスを向上させる新たな可能性を実証できたことに本実証実験の意義があります。
NetAppでは今回の結果もふまえながら災害対策の新たな選択肢を提案していき、これが被災地や、国内企業団体・自治体の災害レジリエンス向上の一助になればと考えています。
本実証実験は、国立大学法人山口大学情報基盤センターの全面協力のもと実施しました。この場を借りてお礼申し上げます。
国内メーカーにおけるストレージ要素技術の研究開発に始まり、外資系コンサルティングファームにおけるITインフラ戦略立案からトランスフォーメーション(要件定義、設計構築、運用改善、PMO等)まで、計20年以上従事。ネットアップではソリューションアーキテクトとして、特にFinOps、Cyber Resilience領域を中心にソリューション開発やマーケティング活動、導入支援等に従事。
FinOps Foundation Japan Chapter 運営メンバー、FinOps認定プラクティショナー(FOCP)
国立大学法人 山口大学 客員准教授